本展の試みについて

アートと人類学の融合

ヤオトン暮らしのなかで生き続けてきた、小さな切り紙のあり様を、どのようにすれば生き生きと描き出すことができるのか?

本展では、人類学者とアーティストである2人の女性が、窓花をめぐる長期のフィールドワークと、思考の間を行き来しながらこのテーマに挑んだ、試行錯誤の過程そのものが展示される。

 

これまでの中国の切り紙の展覧会は、切り紙作品を並べ、その技巧や文様の意味の解説を添えたものが多かった。これに対して本展は、現地で暮らしをともにしながら、窓花やそれを創造する人々と出会った調査=旅を、来場者が追体験するような展示を目指している。

 

窓花を作る女性たちや、彼女たちの暮らしに根ざした愛らしい手仕事のひとつひとつに、観客が五感を駆使して出会えるような趣向を凝らすこと。

紙の造形物と映像を組み合わせたインスタレーションによって、生と死の場面において、紙の花が咲いては枯れるはかなさや、その循環性を再現すること。

ヤオトンの実物ファザードを会場にしつらえて、光と影にうつろう窓花の、日常と幻想が入りまじる不思議な世界を表現すること。

このような多様な展示はどれも、文化人類学の実践 ――従来は文字による記録や分析、民族誌映画といった方法を主としてきた―― が、アートと融合することにより実現する、新たな表現の試みである。

2つの会場の連動―場所の力を展示に活かす

アジアの現代美術作品を扱う福岡アジア美術館と、
「暮らし」をテーマに各種ワークショップやイベントを手がけてきたオルタナティブ・スペース、生活工房ギャラリー。

この性格の異なる2つの会場で、相互補完的な展示を行うこと。
展示する場所の力を、展示自体に取り込むことも本展の特徴だ。

 

両会場それぞれでは、文化人類学の実践における2つのステップを「展示」する。
副題を「暮らしの造形」としたアジア美術館では、フィールドワークのただ中で、現地の人々や窓花をはじめとする事物、黄土高原の自然それ自体と向き合う感覚的な経験の表現を試みる。
対する生活工房では「暮らしのフィールドワーク」と題して、帰国してから、フィールドワークの経験と記憶の断片を寄せ集めて並べ替え、編集し直す過程に焦点をあてる。

 

この展覧会を体験した人々が、帰宅後に異文化を見るような目をもって自らや他者の暮らしを捉え直し、暮らしのフィールドワークの楽しさを共有してもらうことができたら、このうえない喜びである。